音声言語は人間が持つコミュニケーション手段の中でもっとも基本的でかつ効率的なものであるが、病気や怪我の後遺症などによって発声、発話リズム、発音に障害を持つ患者が少なくない。
このような音声障害や構音障害を治療する場合、障害の程度を的確に把握し、評価した上で治療を行い、治療により発声、発話リズム、発音がどのように改善したかなどを客観的に評価する必要がある。しかし、その評価方法は、耳鼻咽喉科などの音声治療の専門医や音声・言語訓練の専門家である言語聴覚士による主観的な聴覚印象評価に頼っているのが現状である。現在、音声障害と構音障害の主観的な評価方法である聴覚印象評価方法として、前者は日本音声言語医学会が標準的に定めたGRBAS尺度が、後者は構音検査が広く普及しているが評価の曖昧性や不安定性がさけられず、評価者ごとにその評価値が異なるなどの問題がある。このような聴覚印象評価の曖昧性や不安定性を少しでも無くすために聴覚印象評価の練習を行うためのカセットテープ等も市販されているが、一般に普及していないのが現状である。また、音声・言語訓練の専門家として言語聴覚士の資格が法律的に定められ、平成10年度9月から施行されており、音声・言語訓練の専門家である言語聴覚士は、音声障害や構音障害に対する正確で安定した障害音声の聴覚印象評価を行い、その症状に適切な言語訓練を行うことが重要な課題となっている。
このような課題に対して客観的に障害音声の評価を支援するために工学的な音響分析手法を利用した分析評価方法が数多く提案されているが、聴覚印象評価支援に役立てるためには充分な精度を持った結果が得られていないのが現状である。一方、インターネットの急速な発達によりインターネットに接続可能なパーソナルコンピュータがあれば誰でも様々なホームページを閲覧し情報収集する事が比較的容易になってきた。
本研究では、このような現状をふまえ、障害の種類や程度の様々な障害音声をデータベース化し、データベース化された障害音声を聴取することにより様々な症状の障害音声についての評価方法や評価基準を音声治療の専門医や言語聴覚士が容易に会得できるような聴覚印象評価訓練・学習システムを構築し、WWW(World Wide Web)を利用して全国どこからでも自由に利用出来るようにすることを目的としている。 このようなWWWを利用した障害音声データベースおよび、これを用いた聴覚印象評価訓練・学習システムを構築することにより、インターネットに接続することが出来るパソコンがあれば、全国どこからでも障害音声データベースの利用や聴覚印象評価の訓練・学習など有効な活用が期待できる。さらに、本研究では、正確で安定した聴覚印象評価ができる音声治療の専門医や言語聴覚士は聴覚印象評価を行う場合、障害音声のどのようなパラメータに注目して評価しているか、正確で安定した聴覚印象評価が出来るようになるためにはどのような訓練・学習プログラムが適切なのかなどについても検討を行うことを考えている。
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